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Our Research Focus

Hideko Isozaki

このイメージ図は、がんの進化過程を表した腫瘍の系統樹を示しています。シチジン脱アミノ化酵素 APOBEC によって引き起こされる変異は、木の枝の部分(進化後期)に観察される傾向があります。

ゲノムは生命の根源であり、生物の生存維持の根幹を司る最も重要な役割を果たしています。個体を取り巻く環境からのストレス(紫外線、喫煙、薬剤、ウイルス感染、加齢など)によって細胞の核内DNAに変異が生じると、細胞生理機能に異常をきたし、がんの進展へと繋がります。単一細胞のDNAに時間とともに変異が蓄積し、やがて優勢な集団となってゆく過程は「クローン進化」と呼ばれています。このクローン進化のメカニズムを解明することにより、がんの進展を制御することが可能となります。

 

DNAに変異が生じるメカニズムは完全には解明されていませんが、いくつかの誘発因子が知られています。その一つとして、シチジン脱アミノ化酵素であるAPOBECが存在します。APOBECは、DNAやRNA上のTpCモチーフにおけるシチジンを脱アミノ化し、ウリジンに変換する一塩基編集酵素です。私たちの最近の研究では、肺がんの分子標的治療がAPOBEC3Aの発現を誘導することが明らかとなりました。APOBEC3Aによる体細胞突然変異や染色体異常の生成がゲノムの不安定性を高め、それが薬剤抵抗性クローン細胞の進化を促進し、最終的に薬剤耐性を引き起こすことが示されました。また、APOBEC3Aを阻害することで薬剤耐性を未然に防ぐ可能性が示唆されました(Isozaki et al., Nature 2023)。この研究成果を受けて、APOBEC3Aを標的にした新しい治療法の開発が期待されています(Villanueva, Nat Rev Drug Discov. 2023)。

当研究分野では、APOBEC3A阻害剤の開発やクローン進化メカニズムのさらなる解明を通じて、発がんや薬剤耐性を予防する新しい治療法の構築を目指しています。また、ゲノム編集技術を活用した治療法の開発にも取り組んでおり、がん治療における新たな可能性を切り拓くことを目指しています。

細胞を皮下注入

Resistance to
lung cancer therapy

Hideko Isozaki

Efficacy of ALK TKI

(e.g. Crizotinib)

Hideko Isozaki
Hideko Isozaki

Day3

Hideko Isozaki

Day6

Hideko Isozaki

Day24

治療前に患者胸水を採取

Hideko Isozaki
Hideko Isozaki

患者由来細胞株

異種移植マウスモデル

患者由来モデルを用いた検討

61歳 女性

EML4-ALK陽性

非小細胞肺癌

肺がんは、世界185カ国の調査において、罹患率および死亡率でともに最も高いがんであり、世界規模で解決すべき重大な課題となっています(WHO/IARC 2024)。

上皮成長因子受容体(EGFR)および未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)をターゲットとするチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)は、変異型EGFR遺伝子やALK融合遺伝子を持つ進行性非小細胞肺がんに対する最も効果的な治療法として広く認知されています。しかしながら、ほぼすべての症例において、腫瘍はTKIに対する耐性を獲得し、再発を引き起こします。もし獲得耐性を克服し、効果的な薬剤を持続的に使用できるようになれば、肺がんによる死亡率を大幅に低減させることが可能です。

有効な治療によって、多くのがん細胞は死滅しますが、その中でも薬剤抵抗性を持つ生き残りのがん細胞(薬剤耐性細胞、DTPs)が存在することが知られています。これらのDTPsが進化することで優勢となった細胞集団が薬剤に耐性を示すことが報告されています(Hata et al., Nature Med 2016)。私たちはこのDTPsを排除することで、獲得耐性を未然に防ぐことができるのではないかと考えています。当研究室では、患者由来の細胞やマウスモデルを用いて、DTPsが有する自然免疫に注目し、薬剤耐性細胞へと進化する過程の解明と、それを阻害する新たな治療薬の開発を目指しています。

APOBECs
and

Tumor Evolution

Hideko Isozaki
Hideko Isozaki

非小細胞肺がん患者の腫瘍から抽出したDNAを解析した結果、治療後の腫瘍において、より多くの遺伝子変異が確認されました。治療過程で蓄積された遺伝子変異の多くは、内因性免疫因子の一つであるAPOBECが引き起こす変異パターンと一致していることが明らかになりました。

Hideko Isozaki

DNAまたはRNAのTpCモチーフに存在するシチジンをウリジンに変換する顕著な変異因子であるアポリポタンパク質B mRNA編集酵素(APOBEC)は、患者の腫瘍における遺伝子変異パターン解析に基づき、がんの発生に関与していると考えられています。治療前に切除された100件の早期非小細胞肺がん(NSCLC)腫瘍を調査した結果、サブクローン変異の数がAPOBECによって引き起こされる遺伝子変異の数と有意に相関しており、APOBECがクローン進化に寄与していることが示唆されました(Jamal-Hanjani et al., NEJM 2017)。

ヒトAPOBECファミリーは11種類のメンバーから成り、さまざまな生理的役割を担っています。例えば、AIDやAPOBEC3はDNAを脱アミノ化して免疫応答を活性化させ、APOBEC1はアポリポタンパク質BのRNA編集を介して脂質輸送に関与しています。進化の過程で、より多くのAPOBECファミリーメンバーが登場したことから、APOBECは進化の重要な指標であると考えられています。

最近の研究において、私たちはAPOBEC3AがDTPs(薬剤抵抗性細胞)のゲノム不安定性を高め、その進化を促進して薬剤耐性を引き起こすことを明らかにしました。さらに、APOBEC3Aの阻害により、獲得耐性の発生を遅延させる可能性が示唆されています(Isozaki et al., Nature 2023)。

 

当研究室では、APOBEC3Aを標的とした核酸医薬の開発や、その制御機構の解明を目指しています。また、APOBEC3Aが遺伝性乳がんや卵巣がんの発症に与える影響についても研究を進めています。

Kanazawa University Cancer Research Institute

Isozaki Lab
- Genome Biology -

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